弘前ねぷた保存基準

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弘前ねぷた保存会
会長 清藤哲夫様

弘前ねぷた保存基準策定委員会答申書

『昭和55年に国の重要無形民俗文化財に指定された「弘前のねぷた」について、弘前ねぷた保存会が、今後、弘前ねぷたの歴史と伝統を、将来に保存継承する手だての一つとして、保存基準を策定するにあたり、そのための原案を立案検討すること』として、平成19年9月4日から平成20年2月29日までの期間で、諮問を受けたこのことについて、本委員会では、これまで慎重な審議を重ねて参りましたが、その結果がまとまりましたので、次の通り答申申し上げます。

平成20年2月15日
弘前ねぷた保存基準策定委員会
委員長 壽恵村 元文
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弘前ねぷた保存基準
平成20年6月23日(制定)
弘前ねぷた保存会

■全体要件
①重要無形民俗文化財指定「弘前のねぷた」に係る弘前ねぷたと称するねぷたは、平成18年2月27日の市町村合併後の弘前市行政区域内の地域に存する団体等が製作・運行するもので、弘前ねぷた保存会が規定する保存基準に抵触しない「ねぷた」をいう
(弘前市以外の他地域の団体等が弘前ねぷたとして製作し、まつり等に参加運行する場合は、弘前ねぷた保存会及びまつり主催者等の特別の許可がない限り、この保存基準を適用するものとする)

②「扇ねぷた」及び「組(人形)ねぷた」の製作においては、「弘前ねぷたー歴史とその製作ー」(昭和58年弘前市発行)の、【第二編 扇ねぷたの製作法】及び【第三編 組ねぷたの製作法】を、参考基準とする

③弘前ねぷたの「笛」及び「太鼓」の囃子は、弘前ねぷた保存会で発行している「楽譜集(行進、休止、戻り)」掲載の「笛」及び「太鼓」の旋律を、参考基準とする

④弘前ねぷたと称する「扇ねぷた」及び「組(人形)ねぷた」は、その製作・運行において、これまで当地に伝承され、市民に親しまれてきた一般的な慣習を尊重し、その歴史的伝統から大きく逸脱・損なうことのないよう留意するものとする

■構造
<扇ねぷた>
①扇ねぷたの構造は、「扇型」の本体、下段の方形箱型の「額」、その中間の「開き」をもって構成するものとする

②扇ねぷたの本体裏面には、「見送り絵」を配するものとする

③扇ねぷたは、本体・額・開きとも、見送り絵及び額絵の配置構造部分以外は平面構成とする
(部分的にでも立体的表現を取り込んだ「扇と人形の複合的構造の扇ねぷた」は、弘前ねぷたの扇ねぷたとは容認しないものとする)

④扇本体の形状や開き・額等の寸法の割り出しは、特に基準を設定しないが、全体として均整のあるバランスの取れた扇形とするものとする
(今日のねぷたの大型化による扇部分の拡大化を容認するも、過去の仲町型や百石町型の伝統的な形状の普及にも留意するものとする)

<組(人形)ねぷた>
①歴史上や説話等に登場する人物等の出来事や一場面を立体的に形状化した本体部分と、本体をのせるための台座部分とで構成するものとする

②台座部分は、津軽式と称される高覧型の構造形式とし、下部から、「額」・「開き」・「板隠し」・「蛇腹」・「高覧(角つき)」・「見送り」及び両横の「袖」をもって構成する

③台座部分の各構成部の寸法割り出しは、明治時代以降当地に伝承されてきた津軽式組ねぷたの割り出し寸法を基準とするものとする

■絵
<扇ねぷた>
扇ねぷたは、和紙または布に、下描き・墨描き・ロー引き(描き)・色塗り等の手順で絵や文字を描き、それを骨組に内外から貼り付け、中に証明設備を施し、燈籠として完成させる

①「鏡絵」(ねぷた本体正面の絵)
明治時代以降中国の三国志や水滸伝、あるいは日本の武将や説話の奮戦図・人情等が題材として多く用いられ描かれており、これを弘前ねぷたの鏡絵の基本とし、骨組には外貼りとする

②「見送り絵」(ねぷた本体裏面中央部の絵)
・これまでは美人画が主に描かれてきているが、鏡絵や袖絵との関連等にも留意して描き、額縁内貼りとする
・見送り絵額縁部分の内側額縁には「蔦模様」の下がった状態を、その外縁には「雲」を描き、何れも外張りとする

③「袖絵」(見送り絵の左右及び上の絵)
鏡絵や見送り絵との関係に留意し、明治時代以降、先人の絵師が配慮してきた図柄や構成等を尊重した絵や文字(熟語)を描くことを基本とする

④「額の絵」
・額の正面には右から「雲漢」と文字を書き、両脇は進行方向を向いた「武者絵」を、後方には正面を向いた「武者絵」を配し、いずれも額縁の内貼りとする
・額の外縁には、「雲」を描き、それは外貼りとする

⑤「開きの絵」
4面全て同寸の格子で割られた画面に、同じ図柄・色彩の牡丹の花模様を描くことを基本とする
(牡丹の花模様と、唐花・ホラ貝・兜等の模様を組み合わせて描くのは可とする)

⑥「肩」
・肩 上ー「七夕」・「町名や団体名」・「石打無用」・「○○記念参加」等の文字を記載するものとする
・肩 下ー大きな雲を描くことを基本とする

<組(人形)ねぷた>
組(人形)ねぷたは、武や針金で人形本体を作り、証明用の配線等終了後、紙や布を貼り、隅描き・ロー引き(描)・彩色をして完成させる

①「見送り絵」及び「袖絵」
「見送り絵」は美人画を中心に、「袖絵」は、見送り絵と一体的な絵を描くことを基本とする

②「開きの絵」及び「額の絵」は、扇ねぷたの準ずるものとする

③「板隠し」は、四面とも枠内に同一の絵模様でも、また違った絵模様でも、可とする

④「蛇腹」は、半円形の膨らんだ構造であるがその縁を赤で、ぼかし描きとすることを基本とする

⑤高覧は、欄干を模したものとされ、端に上向きの「角」がつくが、その彩色は極彩色手法の彩色とすることを基本とする。枠の中には、題材に関係した絵や市章、町内の印などを描くことを基本とする

■運行
<形態>
①弘前ねぷたの運行形態は、運行責任者を先頭に、町印や団体印(高張り提灯や燈籠等)→(前ねぷた)→(ねぷた本体)→囃子《太鼓→(鉦)→笛》を、基本的な運行形態とする
(担ぎ太鼓等を、ねぷた本体の前で叩くなどの運行は可とする)

②ねぷたの運行に際して、踊りやパフォーマンスを隊列の中に取り入れるにあたっては、弘前ねぷたの発祥とされる七夕行事や武者等製作題材の人情・歴史性等で民族行事として関連性が認められること、あるいは公序良俗や法に抵触しないこと、観る人に不快感を与えないこと等が必要とされる
このことから、その踊りやパフォーマンスが、他のまつりやイベントそのものの導入であったり、あるいはこれらを想起させるような踊りやパフォーマンス等は、弘前ねぷたの運行にはなじまないところであり、各ねぷた製作・運行団体にあっては、自粛するよう望むものである

③歴史と伝統に培われてきた弘前のねぷたが、観る人に感動を与え、統制のとれた運行をするにあたっては、まつり関係者等の努力配慮もさることながら、それぞれの運行団体においても運行協力が望まれるところである
運行団体にあたっては、ねぷた制作・運行の作業開始から終了するまでの総括責任者を明確にすると共に、特に運行時においては、形式的な運行責任者だけではなく、運行当日の運行に係る全ての指揮命令責任を有するものを配置することを望むものである

<格好衣装>
①浴衣や半纏といったこれまでの伝統的衣装に加え、今日一般的なTシャツ等洋装、更には他の衣装にあっても、ねぷたまつりを想起・高揚させる格好衣装であれば容認するものとするが、観る人に不快感を与える格好衣装や公序良俗を乱すような格好衣装での運行は慎むものとする

②女性の格好衣装等にあっては、過度の露出を慎むものとする

<かけ声>
かけ声については、これまで特に基準的なことで議論されたことがなかったところである
そこで弘前ねぷた保存会としては、行進運行及び戻り運行についてのかけ声を、今日、一般的に運行団体の多くが使用しているかけ声を基本に基準とすることとするが、七日日運行のかけ声については、一定していない現状にもあることから、このかけ声を普及するよう努力目標として設定するものとする
①行進運行のかけ声は、「ヤーヤドー」とする
また太鼓の小節の合間には、「おっ」と、合いのかけ声をかけることを基本とする

②戻り運行のかけ声は、「ねーぷたのもんどりこ ヤーレヤレ ヤーレヤー」とする

③七日日運行の「笛・太鼓等」の囃子は、最初から最後まで「戻り囃子」とするものとし、そのかけ声は
「ねーぷたこ なーがれろ まーめのハこ とどまれ(とっつぱれ)  ヤーレヤレ ヤーレヤー」とし、えんぷた製作運行団体等ねぷた関係者の協力を得て、この普及に努めるものとする

■囃子
<全体要件>
①弘前ねぷたの囃子(行進、休止、戻り)は、「笛」・「太鼓」及び「鉦」で構成するものとする

②洋楽器その他の道具や器具を利用してねぷた囃子を演奏し、弘前ねぷたまつり等への運行参加は、特別の許可がない限り自粛するするようのぞむところである

③弘前ねぷたまつり等での運行に際し、囃子の全てをテープ等で代替するにあたっては、運行団体へ自粛をもとめるとともに、囃子の習得に努めるよう要請するものとする

④囃子の地域要件及び旋律等は、本基準の全体要件に規定した事項とし、弘前ねぷた製作・運行団体は、まずはこの囃子の習得に努めるものとする

<笛>
①横笛とする

②笛の材料は、竹製が好ましいが、特に限定はしないものとする

③笛の旋律は、原則として、弘前ねぷた保存会が推奨する楽譜集掲載の旋律とする

<太鼓>
①太鼓は、締太鼓(桶胴太鼓)を使用することを基本とする

②太鼓の叩き方は、原則として、弘前ねぷた保存会が推奨する1調バチまたは2調バチの叩き方を基本とする。弘前ねぷた製作・運行団体にあっては、まずはこの叩き方を習得するよう努めるものとする。なお弘前ねぷたまつり等で運行する際は、保存会で推奨する太鼓の叩き方に準じ、地域に伝統的に継承されている叩き方をもって叩くことは可とする

③弘前市域以外のイベントやまつりへ弘前ねぷたとして製作・運行参加する場合は、弘前ねぷた保存会の楽譜集に基づく太鼓の囃子で叩くことを原則とする

④他地域のねぷた太鼓や他のまつり囃子、あるいは弘前ねぷたの太鼓の囃子とは大きく異なる独創的・創作的な太鼓の旋律をもって、弘前ねぷたまつりや他地域へのイベント等への参加は慎むものとする

⑤太鼓に上乗りすることを推奨するものではないが、上乗りする場合には、男性・女性とも、品位を乱す格好衣装は、厳に慎むものとする

<鉦>
①鉦は、過去にねぷた囃子では使用されていなかった囃子道具と推察されるが、今日、多くの運行団体で取り入れられていることから、これを容認するものとする

②鉦の使用にあっては、囃子全体特に笛の音を消すことがないよう各運行団体に留意するよう要請する

③鉦の叩き手にあっては、観る人への過度のパフォーマンスにならないよう留意するものとする

■その他
策定後も保存基準の見直しを随時実施するよう努めるものとする

以上